プロ野球監督人事に見る“組織論” / よもやま話 / By chanter プロ野球の“人事”で、興味深い現象が起こっています。昨年、セ・パ両リーグをそれぞれ制した阪神タイガースとオリックスバファローズが今シーズン終了をもって、監督の退任を発表しました。阪神・岡田監督と、オリックス・中嶋監督。リーグ制覇からのV逸で引責…ということでは片付けられない事情がそれぞれのチームに存在するようですが、その内情を少し掘ってみると、あまりにも対照的な力学が働いておりこれは一般の企業・組織においても学ぶべき事象だと思われます。 まず、阪神タイガース。結構なコストをかけ戦力の充実を図るも2022年シーズンは3位で終了。そこで新監督を招聘すべく球団は人事を模索するのですが、オーナー企業である阪神電鉄は、現在、阪急阪神ホールディングスの子会社であり、基本的には阪神サイドの裁量で決められる人事もこの時ばかりは阪急サイドの“圧力”が働き、岡田彰布氏の監督復帰が決まったと。岡田氏は前回の2005年のリーグ制覇時の監督である一方、卓越した野球理論や組織論の持ち主であるゆえ、球団側との軋轢も少なくなかったようで、2008年の退任後は一定の距離が置かれている状態でした。そんなこともあり、契約の段階から期間を2年としていたようで、昨年のリーグ制覇・日本シリーズ制覇という最高の結果を出した指揮官にも3年目を託す予定は無かったようです。 ただ、今季は主力メンバーの不振が相次ぎ、ベストメンバーを揃えられない中、夏場までは苦しい戦いが続きました。それでも秋には優勝が狙える位置までチーム状態を高め、最後は力尽くも、僅差の2位でシーズンを終える大健闘を見せました。これは一重に岡田監督の手腕によるものであり、多くのファンもそれを認め、来季のリベンジに期待していたところです。しかし、そのファンの思いを汲むこともなく、企業の“都合”で、唯一無二の指揮官をすげ替える。交通インフラ企業で、基本的には利用者の都合など二の次にする電鉄会社ならではの思考なのだと思わざるを得ないところです。 一方、オリックスバファローズ。イチロー選手がMLBへ渡った後、長い低迷を続けていた球団ですが、その中でも、現場を知る人物をGMに据えたり、2軍施設を充実させ、戦力の底上げを図るなど、試行錯誤を続けていました。それはファンサービスについても同様で、京セラドームに観客を集めるために、あらゆる施策を打っていたのは有名な話です。それらの施策が身を結び、中嶋監督の下でリーグ制覇を成し遂げたのが2021年。僅差で4球団がしのぎを削るレース展開の中、最後の最後で奇跡的に頭一つ抜け出した末の勝利。そこから3年連続でパリーグを制し、2022年には日本一にも輝きました。 今季はタイガース同様、春先から主力の不振や怪我が相次ぎ、ベストメンバーを組めたのが何試合あったか、という惨状。大エース・山本由伸を失った投手陣も精彩を欠き、終わってみれば首位から遠く離された5位。しかし、多くのファンをはじめ、球団側もこれまでの功績を踏まえ、来季も中嶋監督に指揮を委ねる想定でいたところに、本人から辞任の申し出があったと。選手の怪我など、不可抗力も多かった中での低迷ゆえに来季は巻き返しが可能だと誰もが思う中で、「組織の緩み」と「リスタートには新監督が相応しい」という考えで中嶋監督は意思を曲げなかったと言います。 現場を知らない親会社のエゴで監督を変えることにした阪神と、チームを愛するがゆえに辞任を選んだ監督を、やはり強く慰留したオリックス。結果的には監督の辞任という同じ展開を見せた両者ですが、内容はこれだけの違いがあります。そこにあるのは、やはり、そのチームを応援し、球場に足を運ぶ客の存在を会社として、どのように見ているかの違いだと思うんですね。放っておいても4万の大観衆が球場を埋める阪神と、弛まぬ努力で何とか3万を集められるようになったオリックス。中嶋監督は大敗するたびに「こんな試合を見せて申し訳ない」という発言をしていました。そこに全てが集約されていると思います。 多くの企業・組織においても、規模を問わず、経営者・役員がいて、その下に従業員がいる。そして、企業として多くの顧客を抱えているという構図でしょう。その中で、年ごとに成長を求められる企業において、いかに自社ビジネスに理解と共感を得ながら、成果を重ねていくかというのが最重要のミッションだと思われますが、そんな中でも、企業・組織のアイデンティティよりも、個人の現状の立場や権威を守るために、ミッションとは逆の力学を働かせる存在もあるようです。企業の目的は何なのか?その仕事の本質とは何なのか?と突き詰めると、自ずと、その時々に起こすべきアクションは見えてくるはずなのですがこれらの保身やエゴによって企業の成長が止まる、退化するというのは力のない従業員にとっては不幸でしかないものです。 少なくとも、上に立つ人間は“オトナ”の視点で自社と市場を見てもらいたい。もっとも、こんなことは、なかなか企業様にも言えないものですがね。こちらも“オトナ”なもんで。